2016年10月18日火曜日

レビュー: 東京の銭湯

東京には様々な銭湯があるが、それぞれ工夫が凝らされていて、入ってみるとなかなか面白い。この記事では、個人的な記録も兼ねていくつかの銭湯をレビュー形式で紹介してみようと思う。
なお、460円の銭湯では、共通回数券を使ってよりお得に入れるはずである。


I.伝統的銭湯
460円が多い/各所

名前は出さないが、家の近くに古いスタイルの銭湯がある。番台にはおばあちゃんがいて、木造の造りに昭和の空気が漂う。脱衣所には扇風機と牛乳の自動販売機。おじいちゃん達が新聞を読みながらくつろいでいる。風呂場の壁には絵が描かれていて、シャワーの隣には黄色いケロリン湯桶が積まれている。典型的な昔ながらの銭湯である。
この銭湯の良いところは何と言っても雰囲気であろう。銭湯といってまず思いつくのはこういうタイプの場所だ。これらは地域の人の憩いの場として姿をそのままに現代まで残ってきたものであり、銭湯全盛のかつての様子に思いを馳せながら浸かってみるのも面白い。
一方、客観的に見て460円の価値があるかは微妙である。というのも、大概の古い銭湯はなぜかお湯がやたらと熱いのだ。あるお店に行った私の友達はやけどしたほどだという。お年寄りに人気なようだが、どう見ても心臓に悪い。江戸っ子にはむしろ快楽なのだろうか。
風呂が熱いのは「回転率を高めている」工夫とも言われているが、それは言い方を変えれば「客を速やかに追い出している」ということである。風呂に入るまでに四苦八苦、そしていざ浸かることができたと思えばあっという間にのぼせて退散する羽目になる。それでも、冬の寒い日はなんだかんだで通ってしまったのだが…。
結局、この手の銭湯は趣を見出せるかどうかが全てではなかろうか。どこか、ぬるくて且つ趣のあるところがあれば教えていただきたい。

項目別評価: アクセスA+ リラックスF 清潔感D 広さE 設備E 趣A+
総合評価:55点


II.清水湯(港区)
460円/表参道

東京の銭湯の中で最も知名度の高い店の一つである。表参道という抜群の立地に、明るく清潔感のある雰囲気が特長である。お湯は概してぬるめで、ゆったりとくつろぐことができる。古いタイプの銭湯だったものを改装して現在の形になったそうだ。
お風呂はジャグジー、炭酸泉、シルク風呂、水風呂の4つ。ジャグジーが広く、3つのジェットバスを併設している。3つのうち1つは腰痛に効き気持ちが良い。残りの2つは水圧が強すぎて痛い。
炭酸泉とシルク風呂は3人が足を伸ばせる程度の広さで、それぞれ特殊な設備を導入してお湯を作ってある。炭酸泉は高濃度炭酸泉と謳っているだけあって効き目が強く、最初はぬるく感じても10分もすればかなり温まってくる。血行を促進する効果が高いため、体の中から温まる上、疲労回復にも適している。それゆえ私が最も気に入っているお風呂でもある。
シルク風呂は細かな気泡を吹き込んで白濁させた風呂であり、なめらかで柔らかい肌触りをしている。木曜日はこのシルク風呂にハーブを浮かべてあり、より一層心が安らぐ。
水風呂は炭酸泉と併用するとさっぱりして気持ちが良い。シャンプーとボディーソープは設置されていないものの、飲み物や石鹸を置く棚があるのは便利である。
難点は人気店ゆえの混雑である。休日の夜7時ごろに行った時、一度整理券で待たされる羽目になったことがある。時間帯を選んで入ると良い。また、サウナ付きにすると1000円となってやや高い。サウナ自体も広くないため、サウナに入りたい時は他の店に行くのが得策と思われる。なお、いくつか設置されているドイツ製のシャワーヘッドは自慢らしいが、使いにくいため普通のシャワーの方が人気がある。
とはいえ、総合的に見て素晴らしい銭湯なのは論をまたない。混雑もその証であろう。私が最も頻繁に利用している銭湯である。ちなみに、隣のそば屋「みよた」のそばが美味かった。

項目別評価: アクセスA リラックスA 清潔感B 広さC 設備B 隣のそば屋A+
総合評価 90点


III.斎藤湯
460円/日暮里

日暮里の斎藤湯も、立地がよく綺麗な銭湯のひとつとして知られている。風呂の種類も清水湯より多く、高濃度炭酸泉、水風呂のほか熱めの風呂、電気風呂などがある。個人的には、やはり炭酸泉があるのが嬉しい。その上この炭酸泉の浴槽は清水湯より広くて深いのだから、なおさら素敵な銭湯である。
特筆すべきは、460円でこれらに加え露天風呂にも入れるという点である。周りは壁で囲まれているものの、開放感は十分。かなり満足できる銭湯である。リンスインシャンプーとボディソープがあるため、タオルさえ持っていけば460円だけで済む。
使いでのある店ではあるが、私は山手線をあまり使わないため1度しか訪れたことがない。本郷キャンパスに行ったついでに、根津から西日暮里に行き、そこから徒歩で訪れるのがひとつの手だろうか。周りは住宅街になっており少々場所が分かりにくい。

項目別評価: アクセスB リラックスA 清潔感B 広さB 設備A 見つけやすさC
総合評価 93点


IV.さやの湯処
870円/志村坂上

都営三田線志村坂上駅から10分ほど歩くと「さやの湯処」が現れる。ここは都内にある源泉かけ流しの温泉として有名である。その温泉は露天風呂になっており、非常に心地が良い。温泉は強い鉄臭を持つ薄い乳白色の湯で、塩分が濃く保温性が高い(水分補給には注意が必要である)。
自慢の温泉のみならず、ここはお風呂の種類が非常に充実している。まず、露天風呂として天然温泉の他に桶風呂と寝風呂がある。桶風呂に入ってお湯を溢れさせるのは爽快で、その上見上げると空が見えるのである。晴れていれば月が見えたはずだが、私が訪れた日はあいにくの曇りだった。寝風呂もリラックスできるが、寝てしまう危険があったので長居しなかった。
内風呂には多数のジェットバスと高濃度炭酸泉、湯椅子(座っていると流れるお湯で体を温めてくれる椅子)、水風呂がある。どれもよいお風呂であった。
これに加えてドライサウナとスチームサウナの2つのサウナがある。スチームサウナには薬草が用いられており香りが楽しめるほか、用意された塩をすり込んで発汗を促進することもできる。これら全てを巡るだけで相当楽しめるのは間違いない。
リンスインシャンプーとボディソープは用意されている。本や飲食物をお風呂へ持ち込むことはできないようだが、脱衣所に自販機と給水器はあった。
併設の食事処は日本庭園を眺めながらの食事を売りにしている。しかし夜に行ったところ暗くて全く見えなかった。蕎麦を注文したが、普通だと感じた。
お風呂のクオリティーが高く、これで870円はかなり安いと思う。1200円はしてもおかしくないのではないか。

項目別評価: アクセスE リラックスA+ 清潔感A+ 広さA 設備A 日本庭園#(評価できず)
総合評価 95点


いかがだっただろうか。実際のところ、文字だけ読まされてもさっぱりわからないはずなので、もし銭湯を探したければこんなblogよりも公式ホームページなりどこか他のサイトなりで調べるのがよいと思う。おそらく途中で読むのをやめておくのが賢明だっただろう。


<追記:10/29>

V.清水湯(品川区)
460円/武蔵小山

武蔵小山の清水湯は460円で天然温泉に入ることができる銭湯である。「黒湯」と呼ばれる黒褐色のお湯は東京に特徴的な温泉で、有機物が褐色を作り出しているそうだ。内湯、露天風呂、水風呂に黒湯が使われている。また、2つある露天風呂の一方には「黄金の湯」という別の黄金色をした温泉が使われている。水風呂にまで温泉が使われているあたり、かなり徹底している。
私は平日午後2~4時ごろに訪れたが、それでもかなり混雑していた。2時ごろは露天風呂につかるどころか脇にある椅子に座って様子を伺うことも至難の技であった。ただ3時ごろになるとなぜか空いてきて、わずかな時間ではあるが露天風呂を独り占めすることもできた。黒湯に設置されたジャグジーの泡が照らされて、黄金色に輝いているのが実に美しかった。
天然温泉の独特の香りも良く、館内も綺麗で、コストパフォーマンスは高い。電車で行くと東急に初乗り運賃を取られて往復の電車代に800円程度かかることと、平日真っ昼間とは思えない混雑が難点か。それでも460円銭湯の最高峰に位置しているといえよう。

項目別評価: アクセスC リラックスA 清潔感B 広さC 設備B 天然温泉A+
総合評価 96点


<追記: 11/7>

VI.文化浴泉
460円/池尻大橋

目黒区の銭湯、文化浴泉には駒場東大前商店街を南下し池尻大橋駅まで行くとたどり着くことができる。駒場キャンパスで勉強した後に銭湯に行くとしたらここであろう。
普通のお風呂の他に、白く濁った柔らかい湯あたりのナノバブル泉と水風呂がある。ジェットバスが3つついている。
木造で趣を残しながらも、店内は現代的で清潔な印象である。風呂の壁中央に高く掲げられた赤富士の絵画がシンボルのようだ。有名店らしく店内にサインが多くある。
湯温は42~3度と少々熱い。それでも大学で勉強した後に入る風呂は心地よい。それを考慮しなければ...表参道の清水湯の下位互換か。

項目別評価: アクセスA リラックスD 清潔感B 広さD 設備D テレビのサイズB
総合評価 70点


VII.ふくの湯
460円/本駒込・千駄木

本郷キャンパスから銭湯に行くならふくの湯になるだろう。東大正門から1.5駅分ほど歩くと到着する。店は温かみのある木造ながらも明るく、清潔さを感じさせる。
大黒天の湯(ラドン泉)と弁財天の湯(薬湯)の2つがあり、男女週替わりで交換になるそうだ。私が行った時は弁財天の湯だった。飾られている富士の絵は見応えがある。普通の広いお風呂が心地よいのはもちろんだが、壺風呂もあり、これを一人で独占するのもまた愉しい。シャンプーとボディーソープが備え付けなのも嬉しい。
本郷の重厚な図書館で勉強するのはなかなか好きだったが、改修工事で閉館するらしい。ここを訪れる頻度も減りそうだ。

項目別評価: アクセスB リラックスD 清潔感B 広さD 設備B
総合評価 72点


<追記: 2017/11/1>
* 喜助の湯
600円/JR松山駅

松山市を訪れた時に寄ったこの喜助の湯はコストパフォーマンスが大変良かった。印象的だったので、東京の銭湯ではないものの特別にここでレビューしたい。
目玉となる道後温泉の湯を掛け流しで使用している浴槽は広く、リラックスできた。更に人工炭酸泉は西日本最大級を謳っており、さほど混雑することなくゆっくり入ることができた。壺湯電気湯歩行湯寝湯ジェットスパなど思いつく限りの風呂が揃っており、更には露天風呂もあって申し分がない。600円でサウナにも入ることができた上、水風呂は温度が違う二種類が用意されていた。
多種多様な風呂が全て高水準でまとまっており、これで600円は相当安いと思う。地元の人を中心に人気があるようだったが、浴槽が広いため混雑はさほど気にならなかった。私は朝にこちらを、夕に道後温泉本館を利用していた。

項目別評価: アクセスB リラックスA+ 清潔感A 広さA+ 設備A+ 温泉A
総合評価 100点


VIII.萩の湯
460円/鶯谷

鶯谷に新装開店した萩の湯が素晴らしいとの噂を聞きつけ訪問してみた。
建物の1階から4階までを占拠している、銭湯とは思えぬそのスケールに入る前から圧倒させられる。1階がコインランドリー、2階が受付・食事で、3階が男湯、4階が女湯となっている。一階丸ごと風呂場にしてしまった大胆さには驚くばかりだ。
中には4種類の湯とサウナ・水風呂があった。まずシャワーを浴びて体を洗ったが、このシャワーの数にも驚かされた。多分2,30台くらいはあったのではないか。それに全てにシャンプーとボディソープが付いていた。これは大変ありがたい。
最初に入ったのはスタンダードな湯(39度)で、ジャグジー・電気を備えていた。十分な広さがあり、リニューアルによる清潔感も相まってこれだけでも地域で評判の銭湯となっただろう。
次に高温湯(43度)に入った。東京で高温の湯というと45度ほどあるイメージだったが、ここはそれほど心臓に負担をかけることなく入浴できたので良かった。ここには入浴剤が溶かしてあった。壁には壁新聞のようなものが貼ってあり、店主の近況や直近のイベントなどが書かれてあった。最近の銭湯で入浴剤を使っているところはそう多くない。これと最初の湯の2つだけでも銭湯フリークの間で話題の銭湯となっただろう。
三番目に炭酸泉(39度)に入った。こちらも広く、適温でよく温まることができた。460円で炭酸泉に入ることができるとそれだけで嬉しい。ここの場合さらにそれが広い(表参道の清水湯の炭酸泉より広い)のであるから素晴らしい。これと今までの湯の3種類だけでも銭湯フリークの間でその名を轟かすことができただろう。
四番目にサウナに入った。サウナも銭湯とは思えぬ広さで、その上朝の入浴の場合無料だという。460円でサウナに入れるなんて聞いたことがなかった。これと今までの湯の4種類だけでも、銭湯界隈は大きな衝撃を持って受け止めただろう。
しかし真骨頂は最後に入った岩風呂であった。これは半露天風呂のようになっており、住宅地ながらすだれをうまく使って風が爽やかに入ってくるようになっている。高階の立地を活かした構造である。このおかげで涼しい空気の中で入浴でき、あまりの心地よさに感動を覚えた。岩風呂は風情があり、植物が植わっているのも面白みがあった。その上朝のためか大変空いていた。横に設けられた椅子に座っていると、涼しい風のおかげで水風呂に入らなくても自然にクールダウンできるようになっている。銭湯でここまでできるのか。想像を超えたクオリティの高さに私は深く感じ入った。これは銭湯界隈が大騒ぎするわけである。
充実のサービス・広い浴槽と炭酸泉・高温泉で「理想の銭湯」を実現するばかりか、岩風呂ではその「理想」をも超えてきた。この銭湯の存在は信じがたいばかりである。

項目別評価: アクセスA リラックスA+ 清潔感A+ 広さA+ 設備A+ 風A+
総合評価 110点