2019年2月14日木曜日

バレンタイン・チョコクッキー

昨日、卒業研究報告書を完成させた。締め切りは明日の正午である。この大学を卒業するためには、それまでに大学の事務室に行って報告書を提出する必要がある。

さて、今日は昼過ぎに起床した。今日はバレンタインデーである。
私の記憶によれば、事務室は17時に閉室する。まだ報告書を印刷していないが、時間には十分余裕があるといってよいだろう。それに、万一今日提出できなくても明日提出すれば問題はない。一方、バレンタインデーという日は今日を逃すと一年後までやってこない。これらの考察から、本日はチョコクッキーの作製を行うべきであると判断された。
クッキー作りに必要な材料は以下の通りである[1]。
・薄力粉
・卵
・無塩バター
・砂糖
・牛乳
これらを良い塩梅で混合し、生地を寝かせてオーブンで焼き上げればプレーンクッキーが完成する。表面上はこの方針に従いつつも、完全に従うのではなく溶かしたチョコを生地に加えて権力に反抗する姿勢を示せばチョコクッキーになるだろう。つまり面従腹背である。チョコクッキー作りとはパンクロックの精神を体現することであると言っても過言ではない(*1)。その証拠に、チョコは大麻の隠語でもあるのだ。

こうしてチョコクッキーの作製を決定したものの、私には無塩バターの持ち合わせがなかった。その代わりに所持していたのは、有塩バターおよびキャノーラ油である。
有塩バターは、 無塩バターになりかけていたものの、食塩の添加によって惜しくも無塩バターを通り過ぎてしまったものである。一方牛乳はバターの原料、いわばバターのデュナミスである。この関係を図1に図解した。
図1 無、牛乳、バターの関係。
これらはバターパラメターと呼ばれる一次元量によって順序化される。

図より、牛乳と有塩バターを混合すると実質的に無塩バター状態になると考えられる。
また、植物油はマーガリンの原料であり、バターはマーガリンと近似的に等しい。一般にマーガリンは植物油中の脂肪酸を部分的に水素付加することで得られるが、この水素付加反応はNi触媒のもとで進行するため、家庭で行うことは難しい[2]。ところが、最初期のマーガリンは油脂に牛乳を加えるという単純な方法によって作られていたとされる[3]。これより、マーガリンの製造に水素付加反応は必須ではないことが理解できる。ここまでの議論を総合すると、牛乳とキャノーラ油の混合により実質的な無塩バター状態が発生する、と結論づけられる。

チョコクッキーの作製にあたり、最初にチョコレートの加熱を行った。「帰宅部裏サイト(*2)」[4]によれば、チョコレートの加熱は湯煎で行うことが定石である。そこで、鍋に水を張り、鍋を緩やかに加熱して温水を作製した。この温水にプラスチック容器を浮かべ、手で割った板チョコレート50 gと少量の牛乳を加えて静置した。板チョコレートには明治「ミルクチョコレート 50 g」を使用した。並行して、卵を割って卵黄を取り出し、不明な分量のバター、キャノーラ油、牛乳、オリゴ糖シロップ(*3)とともにボウルに加えた。次に、卵白に少量の醤油を加えてこれを飲んだあと、液状になったチョコレートと、ザルを通した薄力粉100 gをボウルに加え、撹拌した。原材料の一体化に伴う副次的な現象として、有限の体積を持つ様々な物体が散乱することによるキッチン内の可処分空間の減少が確認された。こうした状況を受け、ボウルを鍋の上に置き、鍋の上でボウルの中の材料を練り混ぜることを決定した。その結果、私は鍋、水蒸気、ボウルを経由してIHクッキングヒーターからの間接的エネルギーを受け取らねばならない事態に陥った。この出来事は、ボウルを鍋に置いて作業する際はIHクッキングヒーターの電源を切った方が良いことを示唆している。
ともかく、これらの作業の産物として、クッキーの生地が得られた。しかし、この生地はどういうわけだか非常に柔らかく、外力なしに円盤状の形を保つことが困難であった。生地は本来冷蔵庫で寝かせるのであるが、こうした局面を鑑みてここでは冷凍することにした。どうやら牛乳はクッキー生地にドバドバと入れるものではないようである。何十分か冷やすと、生地はかたいペースト状になった。
最後の工程として、このペーストを包丁で切り、焼き皿に並べ、予熱したオーブンレンジで焼いた。オーブンレンジのメーカーは泉精器(本社: 長野県松本市[5])である。 表面に焼き色がついたら裏返して再び焼いた。
かくして12枚のチョコクッキーが出来上がった(図2)。
図2 バレンタイン・ チョコクッキー。
50 gのチョコレートと100 gの薄力粉から作製した。

試食したところ、ややかたく甘味の面で物足りないという難点を抱えてはいるものの、十分食べ物としてカテゴライズ可能であることが分かった。その一方で、左手に装着していた腕時計により、現在の時刻が16時過ぎであることも分かった。加えて、報告書の体裁が整っているかを確認するために慌てて指示書を開いたところ、報告書の体裁が整っていないこと、及び、事務室の閉室は16時半であることが確認された。 これらの事実は、報告書の本日中の提出は著しく困難であることを強く示唆していた。

以上の理由により、私は卒業がかかった起床を控えているという緊迫した状況の下にある。普段から早朝に起きられているのならよかったのだが、不運にも私は今日昼過ぎに起きたような人間である。この出来事は、余裕をこくことが己をいかに危険な事態に導くかを示唆しているといえるだろう。

2/15 追記: 提出した。

(*1)これは過言で、パンクロックならば面と向かってやかましく大々的に反抗するべきである。
(*2)現在は閉鎖されている。
(*3)砂糖の代用である。

参考文献
[1] 株式会社 明治「手づくりChocoレシピ オーナメントクッキー」. 最終閲覧日2019年2月14日. https://www.choco-recipe.jp/milk/recipe/083.html.
[2] King, J. W., Holliday, R. L., List, G. R., Snyder, J.M (2001). Hydrogenation of vegetable oils using mixtures of supercritical carbon dioxide and hydrogen. J Amer Oil Chem Soc. 78: 107. https://doi.org/10.1007/s11746-001-0229-8.
[3] 日本マーガリン工業会 「マーガリンってなに?」. 最終閲覧日2019年2月14日. http://www.j-margarine.com/kiso/what.html.
[4] くろは (2013).「帰宅部活動記録 4巻」. 東京, スクウェア・エニックス.
[5] 株式会社 泉精器製作所「所在地」. 最終閲覧日2019年2月14日. https://www.izumi-products.co.jp/company/map/.

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