2016年12月4日日曜日

Arduous Learning of English for a Science Student (5)

リンク:
Arduous Learning of English for a Science Student (1)
Arduous Learning of English for a Science Student (2)
Arduous Learning of English for a Science Student (3)
Arduous Learning of English for a Science Student (4)

[前回のあらすじ]
ALESSが終わった。

最初はALESSに意欲的だったはずなのに、なぜあのような結末に終わってしまったのだろうか? あのALESS体験から1年以上経過した今、考える。
「ALESSは英語を学ぶ授業であってScienceを学ぶ授業ではない」という意見を、ある学生から聞いたことがある。ALESSでは論文の構造分析、Academic Writing、文献の引用方法など英語に関することについては指導が手厚い一方で、既存文献の理解の仕方、実験の立て方、考察の仕方などScience側に関することは指導が手薄になっている(*1)。実のところ、Science側に属することはいい加減でも減点されない。引用している論文を完全に誤読していたところで誰が気づく訳でもなければ、考察が科学的におかしかったところでさりとて問題にならない。極端なことを言えば、数値を捏造しても構わない。
捏造まではしないにしても、できるだけ簡単に終わる実験をし、Science的なことは手を抜いて、その分引用文献の数を稼いだり洗練された英文を書いたりすることに力を注ぐ、というのがALESSの賢い受け方だったのである。私はALESSが終わってからこのことに気づかされた。
思えば、私はこの点からいって無駄な苦労をしすぎている。論文が読めなかったことに始まり、実験ではやたらと試行錯誤を繰り返すことになった挙句、考察が書けないという問題を抱えた(*2)。これらの問題を学生が抱えたところで、適切な助言は与えられない。したがって大した教育的効果もない。ALESSが終わったときは確かに"Hard but useful"だったのかな、とも思っていた。しかし最近では、私はただただ無駄に苦労しただけだったのではないか(*3)と感じるようになってきた。
身になる苦労ならまだしも、学生を徒らに疲弊させる苦労は消し去るべきである。では東京大学はこの問題にどう対処すべきだろうか?ここでは、3通りの案を提示してみたい。

1)ALESSを廃止する。
一番確実な方法といえよう。問題を根本から絶つ方法である。
2)入試を変える。
アドミッションポリシーに「言外の意味も読み取ることで何が求められているのかを的確に見抜き、現代社会をしたたかに生きていけるような人物を求める」という具合の内容を明記し、入試も空気を読むことを求めるものにする。入試における情報戦のウェイトを上げる。化学などの問題では、教科書にないが解くのに必要な知識はリード文で与えられるが、これも全廃して理不尽にする。東京大学入学後の生活で苦労するような人に与える合格通知などない。ALESSでもビクともしないような人こそ、東京大学の求める人物像なのだ。
3)「初年次ゼミナール理科」と連携or統合する。
「初年次ゼミナール理科」は2015年度入学理科生から開始された授業で、「新1年生が基礎的な学術スキルを身につけることをめざした少人数制必修授業」(*4)と位置付けられている。「初年次ゼミナール理科」では、選択したテーマに基づいて、教員やTAの指導を受けながら、グループでの共同学習及びプレゼンテーションやレポートによる発表を行うことによって、サイエンティフィック・スキルを身につけることが目的である。その内容は教員によって多岐に渡っており、私はアメリカの地質構造について文献を読んで考える授業を取っていたが、相対性理論について議論する授業やフィールドワークから生物多様性を分析する授業を取っていた友人もいた。
興味深い授業ではあったが、内容が多岐に渡っている分、必修とする意味は薄いのではないかと感じていた。実質、取らなければいけない主題科目(*5)が一つ増えただけではないか、と。そこで、英語で論文を一本書くという共通の目標を導入するのは悪くないのではないかと考える。
前述の通り、ALESSにはscienceの観点からのサポートが欠けている。「サイエンティフィック・スキルを身につけることが目的」とされる初ゼミとうまく連携すれば、論文の内容面も担保できるのではないか。そもそも、初ゼミでは「プレゼンテーションやレポートによる発表」をすることになっているが、これはALESSでもやることである。わざわざ学生に二つの発表を課すより、一つにまとめてしまう方が合理的だろう。
「初年次ゼミナール理科」の協力が得られれば、文献を探すこと、実験計画の立案、考察の仕方などについても知識のある教員やTAと議論できることになる。特に物理系では、実験を行うのが難しいテーマもあるだろうが、コンピューターシミュレーション(*6)などの手もある。あるいはreviewの投稿を認めてもよさそうだ。地震の解析をする初ゼミがあったように、データは教員が用意することも考えられる。
現状のALESSは、「興味のあるテーマを選択する」という建前で実施されているものの、実際に学生が選ぶテーマは心理系・生物系に偏っている(*7)。初ゼミと連携させる案は、テーマの多様性拡大にもつながると考えている。

いかがだっただろうか。個人的には、1案が最もよいと思う。(終わり)

(*1)これらは授業や予習ビデオでも扱われることはない。指導はALESS-labに丸投げであるが、大混雑であるし大した助言はない。
(*2)こうした問題に時間をとられる一方、発表や出席には失敗した。進振りで点数が重要な意味を持つ東京大学にあってはよろしくないことである。
(*3)現在、Advanced ALESSという授業を取っているが、この授業では実験を行わず、研究の提案のみを書く。これはただただ英語がキツい授業である。既存の文献の理解など、Science部分は東大の教員(特に駒場の教員)に適宜メールして質問することになっている。ただ、このシステムを必修のALESSでやると、駒場の教員が多数届くメールへの対応に追われることになると思われる。
(*4) http://www.komex.c.u-tokyo.ac.jp/archives/1837
(*5)授業の区分の一つで、分野横断型リレー講義や少人数のゼミが分類される。
(*6)コンピューターシミュレーションでALESS論文を書いた人はすでにいる。銀河系の形成についての論文だった。
(*7)ALESSの教員もほとんどが心理系か生物系を専門としている。

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Arduous Learning of English for a Science Student (5)
Arduous Learning of English for a Science Student (Appendix)

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