2021年1月4日月曜日

履歴現象《ヒステリシス》

昨日、同じ高校から東大に来た後輩2人とお話をした。仮に、それぞれA、Bとしよう(*1)。Aは理学系研究科M1の男性で、普段は岐阜県神岡町の施設で研究をしている。Bは理科二類1年生の女性で、秋からヨット部に入っている。以下はそのときの様子である。

私「もう授業は対面になっとるん?」
B「語学、スポ身、実験はそうですね。でも、それも隔週で。大学に行くのは週に1回くらいですかね」
私「じゃあ半分くらいは部活のために東京おるわけか。ヨット部はどないなん?」
B「普通に活動してますね。週末は湖に行って、ヨットの練習をしています」
私「ヨットの練習って何なん?帆を張っていい具合に風が吹くのをずっと待ってるってわけじゃないんやろ?」
B「二人一組でやるんですけど、主に一人が風向きに応じて帆の角度を調整して、もう一人が自分の体重を使って舟のバランスを調整する感じですね」
私「2人目の人がポンコツやったらボートが転覆するわけか」
B「転覆しますね。今まで何回も落ちました」
私「その日はビシャビシャで家帰る......」
B「いや、流石にウェットスーツは着てます。水にいる間はまだ大丈夫なんですけど、陸に上がってからが寒いですね」
私「なるほど」

私「てか君結構食べるなあ」
B「あー。ヨット部に入ってから食べる量は増えましたね」
私「体幹鍛えられそうやもんな」
B「先輩にも体格の大きい人が多いです。女性の先輩でも、体重70キロとか」
私「君もそれになりたい、と。今年の抱負は体重70キロ」
B「そこまでは目指してないですけど......」
A「身長もそんなに高くないし」
私「でも重心高くて体重も重いってなると、転覆したら絶対そいつのせいやんな」
A「自分の体重でカウンターバランスをとるんですから、その方がいいんじゃないですか」
私「つまり、デカくて上手い人は転覆をめっちゃ防いでくれるけど、デカくて下手な人は転覆させまくりってことか。存在自体がハイリスクハイリターン」
A「ハイリスクハイリターンな存在......。なんか、すごい投資家みたい」
私「うーん、ヨットって投資に通じるんかもしれへんな。Bさんも、ヨットを操縦した経験を活かして株とか仮想通貨やってみたら案外儲かるかもしれへんで。老後のことを考えると、やっぱり資産運用は大事やからな」
B「投資ですか......。考えておきます」

A「キム卓会って運動系なんですか、文化系なんですか?」
私「文化系やね。新歓は自然科学サークルとして申請してる」
A「CASTとかの隣にキム卓が」
私「先輩が、「時錯とCASTをかけてルートを取ったのがキム卓」って言うとったわ」
A「相乗平均」
私「そうそう」
A「相加平均だったらゼロになりそう」
私「ルートの中身、負!?」
A「CASTとキム卓は複素平面上で直交している」

私「Aセメは授業何とっとったん?」
B「基礎統計と、進化学と、音楽論っていうオペラを鑑賞する授業をとっていました」
A「へー、音楽論。面白そう」
私「進化学な。後期教養やったか、それとも何かの資格やったかは忘れたんやけど、「有機化学」とか「無機化学」とか、「○○化学」っていう名前の授業を規定数とったら、「この人は化学をある程度修めましたよ」って認定してくれる......みたいなプログラムが確かあって(*2)。それの注釈に、「「進化学」は含みません」って書いてあったんよな。へー、進化学って化学じゃないんや!って。進化学って俺とったことないから中身は全然知らへんのやけど、とりあえず化学じゃないらしいから。そこはみんな注意しといて」
B「あと、農学部の先生が担当されている、演習林に行く授業も取りました」
私「原則オンライン授業になっとっても、それは現地に行かせてくれるんやな」
B「そうですね。12月下旬の、感染者が増えている時期ではあったんですけど」
私「でも屋外やからまあええのか。これが千葉の演習林じゃなくてボルネオのジャングルやったらまずかったかもな。密林やから(*3)」
A「三密が四密になってしまう......」

A「高校の頃、真空砲の威力を測ろうとしていて。筒をポンプで減圧したあと、一方の端を破るとそこから空気が勢いよく入って反対側から弾が飛ぶっていう。それでドライバーを入れて飛ばしたら、物理室の窓ガラスが割れたという出来事がありました」
私「危なすぎる......。なんでドライバーを入れてしまったのか」
A「ピンポン弾やと空気抵抗で減速してしまうんですよね。それでドライバーを使って、木の板を何枚破れるかで威力を測ろうと。それで飛ばしてみたら、「あれ?ドライバーどこ行った?」って。探しても物理室のどこにもない。結局窓ガラスを突き破って外に飛んでいっていました」
私「マッドサイエンティスト......」
A「T先生に報告したら「気ぃつけてくださいねー」とだけ言われて、I先生も「ほな、ガムテープで窓ガラス塞いどけよ」だけで済ませてしまって。誰も怪我せんかったからよかったけど、今思ってもあれはもっと怒られた方がよかった」
私「うちの高校の先生って変な人多いよなあ。なんであんな変な人ばっかりなんやろ。公立高校やのに」
A「他の高校から流れ着いてくる......」
私「ああ、よそやとクレームが来るのか。「変人すぎる!なんやこいつ!」って。それで転々とさせられて、唯一変人でもクレームがつかない学校がここ。やから変でも残ることができて、変な人はよそからどんどん入ってきて、変な先生ばっかりになっていく。なるほどなあ」

B「A先輩は普段神岡にいらっしゃるんですよね」
私「なんか、寮みたいなんがあるんやっけ?」
A「そうですね。ゲストハウスがあって、そこで寝泊りしています。形式上は出張と言うことになっていて、大学が出張費を出してくれています。なんで、あまり家を借りたいとは思わないですね。500円払えばちゃんとご飯も食べられますし」
私「じゃあ、研究所と寄宿舎の往復で大体事足りるんや」
A「はい。最寄りのコンビニは10何キロ離れているので、何か買うときは研究所の共用の車を借りて行きます」
私「へー」
A「姫路だったら山が北にあるじゃないですか。違和感があるのが、向こうだと海が北で山が南なんですよね」
B「正反対ですね」
A「「山に向かっているのになんか眩しいな......」ってなります」
私「Aは鏡の国に住んどるんか。じゃあ、対称性が破れてるものを測ってみたら面白いかもしれへんな」
A「アミノ酸の旋光性とか」
私「そうそう。アミノ酸って実は山がどっちにあるのかを感じ取って自分の旋光性を決めているらしい」
A「姫路から神岡に行くと、京都あたりでD型L型が切り替わる......?」
私「京都は盆地やからややこしいな。アミノ酸も混乱してもて、「うわ、あっちにもこっちにも山あるわ!」って思とるうちに、目が回ってふらふらになってもうてる」
A「ヒステリシス起こしそう」
私「あー、そうかもな。これは興味深いテーマやわ」
B「ヒステリシスって何ですか?」

ヒステリシス(履歴現象)とは、外力や外場などのパラメータを変えて系の状態を制御するとき、その系の状態が現在のパラメータだけで決まるのではなく、それまでにどういうふうに変化してきたかにも依存して決まってくるという現象のことである。

(*1) 私の高校から東大に合格するのはかなりまれなことであり、BはA以来の東大の学部入試の合格者である。
(*2) その正体は、甲種危険物取扱者の受験資格である(参考)。
(*3) 最近はAmazonの使用を控え、専らヨドバシ.comを使うようにしている。

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