2016年3月15日火曜日

志望理由(2)

前回の記事の続きである。

<前回のあらすじ>
京大理学部と東大理Iを比較検討してなお出願校を決められなかった私は、サイコロによって出願校を決めることにした。しかし家にサイコロはなかった。


私は信頼できるサイコロが欲しい、amazonか何かで買ってくれと親に訴えた。理由を聞かれたので出願校決めに使う旨を述べたが、拒まれ(当然である)、サイコロは手に入らなかった。そこで私は代わりにトランプカードを使うことにした。1~6のカード24枚を用意し、友人に持ってもらって、適当に1枚を引くのだ。素数(2,3,5)は京大、それ以外(1,4,6)は東大とした。
(ところで、これは突然思いついたことではなかった。迷いを断とうと、センター試験の翌日の月曜日、自己採点の日にトランプ引きを行うと前々から計画していたのだった。私は教室にトランプを持ち込んで、友人がカードを持ってくれた。しかしカードを引く勇気が出なかった。例のごとく「先延ばし」したのだった。確かこの頃は京大に寄っていた。)

私はついにカードを引いた。2。京大だ。

帰って親に伝えた。京大に行く。志望理由は2が出たからだ。
やはり反対された。「出願校は自分で決めなければならない」。しかし私にも言い分はある。「これは決して思考の放棄ではなく、むしろ熟慮の結果である。トランプの結果に任せることを自分で決めたのであり、これが自分の判断であるという点に揺るぎはない」、だいたいこういうことを言って反論した。だが説得はしきれなかった。京大に行くに足る、「ちゃんとした理由」を用意することが必要だった。
迷いが断ち切れていなかったのか、だんだん自分でも自信がなくなってきた。それは心が疲弊していたためかもしれない。とりあえず1日おくことにした。

このころの私の志望校は本当にめちゃくちゃで、端的に言えば振動していた。全くのニュートラルである日は少なく、一方に心が寄っては他方に寄るということを繰り返していた。そして、前日に大きく京大に寄っていた心は、一晩おいて突然東大寄りに変化したのだった。
私は概ね以下のようなことを考えていた。
京大は「自由の学風」を掲げていて、私も「自由」は重視していた。しかしその具体的意味は調べても今ひとつはっきりしなかったのだった。私は京大の掲げる「自由」が有名無実化している可能性もあるなと疑った。確かに京大理学部は専門分野の選択方法の点で学生に優しそうだ。しかし、理学部で一番人気の高い理物でさえも、東大生の進振り平均点と比べ少し高いだけのようだ。私は東大で成績競争しても、何の不自由を感じることなくどこでも行けるのではないだろうか…。
東大において点数の低い科目は進振りであまり考慮されないという「追い出し」システムは知っていた。進振り制度のもとでも履修の自由度は高く保たれているようだと考えた。当時の私に、HMDが妙な改革を起こす兆しを感じ取ることはできなかった。
俄かに、(1)立地 や (3)制度 に関する考察がかなり主観的で頼りないもののように感じられ始めた。(5)偏差値 (6)予算 は数字に表れていることだ。これらに関する考察はバイアスが少なくより信頼できるはずだ、と思った。
親は京都大学をすすめていたが、天邪鬼な私にはそれと反対のことをしてみようという気持ちまで芽生え始めた。そういえば世界大学ランキングとやらでも京大は東大以上に評価を落としていたような。先生も、「これだけセンターの点があるのなら、センターの比重が大きい東大の方が受験には有利かもしれない」といった感じのことを言っていたな…。

一旦心が傾いた私には、東大を志す理由が集まってきた。私は東大に行くと言って、(5)(6)について親に説明した。「ちゃんとした理由」だったので、すぐに了解が得られた。私はセンター試験の受験票の下半分の成績請求票を切り取って東大の願書に貼り付け、明くる日郵便局へと持って行った。
出願の後はこの件に関しての思考を停止し、合格発表の日まで封印した。ひたすら青本を解いたのでなかなかはかどったものだった。


かくして、今私は東大の学生証を与えられている。これを携えているからには、やはり私は東大生なのだろう。そこを否定するのは、さすがに無理があるようだ。

<追記>
「サイコロを振った」その日に京大志望として押し切れなかったのは、本質的には京大志望でなかったからかもしれないと考えるようになった。つまり、あの日から実は東大によりかけていた、という解釈である。もしそうなら、私は自分で自分の認識を曲げたことになる。結局、私は偏差値で大学を選んでしまったのだろうか。受験生としての自分が、偏差値という幻に対して奴隷にすぎなかったとは、ある意味受験生活全てを通して最も認めたくないことだ。
冒頭の「今でもはっきりしない部分がある」という記述は、主にこの点に関係している。

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