2019年5月3日金曜日

服屋の店員

大型連休ということで、ここ数日は帰省して実家にいる。部屋で惰眠を貪っていると、服を買いに行かないか、と母親が声を掛けてきた。私はファッションに対する知識、センス、関心どれをとっても壊滅的に低水準であり、一人でユニクロ以外の服屋に買い物に行くことができない。そういうわけで、この歳になっても未だに母親と服を選んでいる(*1)のである。
服屋の難しいところは、服を物色していると店員が話しかけてくるところだ。服屋の店員は概して話術が巧みである。服を選ぶ基準を持ち合わせていない私は、話しかけられたら最後、店員の勧めるがままに服を買うことを余儀なくされてしまうのだ。そして今日もまた、服屋の店員に話しかけられた。
「何かお探しでしょうか」
「はい。暑くなってきましたので、初夏らしい爽やかなコーデをと思いまして」
「なるほど。どこかお出かけなどされるのですか?」
「お出かけ......。三宮の方で、博物館なんかに行くことはありますね」
「博物館ですか。ちなみに、どのような博物館なんですか?」
「え、えーっと......。この前行ったのは、麻酔......麻酔博物館っていうところです」
「え、麻酔、麻酔ですか?そういう......クスリとかがお好きなんですか」
「はい!!!」
「へえ......こう......科学......最新の科学技術に興味を持っていらっしゃるんですね。そういうことでしたら、こちらのボトムスにこちらのシャツを合わせてみるのがオススメです。カジュアルで......よく似合われるかと。試着されますか?」
「そうですか!はい、試着してみます!」

こうして見事に乗せられた私は、勧められるがままに四着の服を購入してしまった。帰り道、私は母に尋ねられた。
「あんたそういうの興味あったん」
「ああ、試着してみたら似合っている気がしたから」
「そうじゃなくて、麻酔に」
「あ......え......。うん、まあ、一応......」

(*1)現在私は22歳だ。彼女はいない。母親は今の私にとって最も身近な異性である。

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