2016年11月6日日曜日

Arduous Learning of English for a Science Student (3)

リンク:
Arduous Learning of English for a Science Student (1)
Arduous Learning of English for a Science Student (2)


[前回のあらすじ]
リンゴを皮/果肉/芯に分け、最もエチレン放出量の多い部位を特定するという実験を行うことになった。

先生から「とりあえず実験を始めてみてください」と指示を受けたので、細かいことを考えるのは後にしてひとまず実験を始めてみることにした。

最初に建てた実験の計画は以下の通りである:
①リンゴを購入し、皮をむき、身と芯をカットする。リンゴはエチレン放出量が比較的多いとされるジョナゴールド(*1)を使用した。
②それぞれの部位をおろしがねでする。細胞を傷つけた方がよりエチレン放出量が多いという論文があった(*2)ためである。
③ ホウレン草の葉を用意する。ホウレン草はエチレンの影響を受けやすく(*3)、さらに老化すると黄色くなる(*4)という性質を利用する(*5)。
④ペットボトルの底を切り取って容器を作る。容器にすりおろした芯、果肉、皮、そして「無」(これは対照群である)を入れる。
⑤4つのZiplocを用意し、ホウレン草の葉と先ほどの容器を中に入れる(写真1)。
⑥毎日葉を取り出し、写真を撮って経過を観察する。

写真1 実験初日の写真
木曜日の夕方放課後、実験の準備を実行すべく私とAは(*6)A宅前に集まった。スーパーでリンゴを買い、A宅から包丁を持ち出して(*7)、公園でリンゴを剥いてすった。電子天秤で計って全て20gになるようにしてペットボトルの底で作った容器に入れた。これを私の下宿に持ち帰り、下宿の冷蔵庫で保管していたホウレン草の葉を各袋に4.2g分ずつ入れた。これらは暗所に常温で保存した。実験が開始された瞬間である。
実験3日目、心なしか少し葉が黄色くなって来たような感じがしてきた。これは期待が持てるかもしれない。私は明日を楽しみにして待った。

翌日、観察しようと葉を取り出した私は衝撃を受けた。そこでは劇的な変化が起こっていた。葉がカビてボロボロになっていたのである(写真2)。
写真2 実験4日目の写真
5月。日増しに暑さが増していき、それとともに湿度も上がる。ホウレン草は柔らかく栄養豊富であるから、カビにとっては誠に繁殖に好適である。私はアレルギーのためカビに対して脆弱であるから、実験を中止し問答無用で葉とリンゴを捨てた(*8)。

さて、実験は仕切り直しである。実験データが必要な日が近づいていた。マイナスからのスタートによる疲れを癒す暇もないまま、我々は2度目のリスタートを切ることとなった(*9)。(続く)

(*1)Yoshioka, H., Aoba, K., & Fukumoto, M. (1989). Relationships between qualitative and physiological changes during storage and maturation in apple fruit. Journal of the Japanese Society for Horticultural Science , 58 (1), 31-36.
(*2)Yu, Y. B., & Yang, S. F. (1980). Biosynthesis of Wond Ethylene. Plant Physiology , 66 (2), 281-285.
(*3)National Agriculture and Food Research Organization. (n.d.). optimum storage condition of vegitable. Retrieved 7 8, 2015, from https://www.naro.affrc.go.jp/vegetea/joho/vegetables/cultivation/04/index.html
(*4)Hisaka, H. (1989). A relation of Change in Appearance to Cjanges in Sugar Content and Respiration Rate in Spinach during Storage. Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi , 36 (12), 956-963.
(*5)糖度計は大学から借りることができるため、当初はバナナを使おうとした。しかし糖度計は予約でいっぱいで借りることができなかった。「糖度計を借りることができない」ということを知るためにも昼休みを潰して所定の場所で長蛇の列に並ばなければならない。これだからALESSはクソである。ただ、電子天秤は貸してくれて助かった。
(*6)サボりなのか、Bが実験に参加したことはない。論文は2人で探したし、実験も2人で考え2人で実行した。Bの存在が役に立ったためしはない。彼はデータだけ利用した。これだからALESSはクソである。
(*7)理由は忘れたが、大方散らかっているか台所のスペースが狭いかであろう。ただ、公園に包丁を持った男がいて、別の男と何やら共謀しているというのも危険な光景である。通報されずに済んで助かった。
(*8)実験に使用した食材を後でスタッフが美味しくいただいていない。ALESSにはこうした食材を無駄にする実験も多いため、社会的批判を浴びる日も近いだろう。
(*9)一見馬から落馬しているかのような言い回しだが、「二回の白紙撤回と三回のスタート」という意味である。

リンク:

Arduous Learning of English for a Science Student (4)
Arduous Learning of English for a Science Student (5)
Arduous Learning of English for a Science Student (Appendix)

Arduous Learning of English for a Science Student (2)

リンク:
Arduous Learning of English for a Science Student (1)

[前回のあらすじ]
自分で実験して論文を書く授業「ALESS」が始まった私に、論文を探して読む課題が与えられた。

論文を探す方法として、ALESSの授業ではgoogle scholarが挙げられていた。図書館に入りパソコンを立ち上げ、波について検索を始めた。
ところが早速壁にぶつかった。読める論文がないのである。しっかり読む必要はなく、Scanningしろとは言われたものの、それにしても読めない。それは考えてみれば当然のことで、インターネットにあるような古くない(*1)論文は高校物理程度の知識で太刀打ちできる代物ではないのである。そうこうしているうちに図書館の閉館時間が来てしまった。授業は翌日だった。私は出てきた論文を適当に選んで印刷して、それを持って行きお茶を濁すことにした。

授業が始まった。グループの3人で論文を持ち寄って、話し合いをすることになった。ところが、始まってすぐに問題が発生した。誰一人まともに内容を説明できないのである。事情はA,Bの2人にとっても同様であった。有意義な話し合いができないままその週の授業は終わり、「実験を提案する」という課題が出た。
ALESSの実験にはルールがある。第一に、特別な道具や薬品なしで行わねばならない。ハカリなどは貸してくれるが、必要なものは基本的に自費で賄うことになっている。第二に、やってみるまで結果のわからない、「正しい結果」のない実験を計画しなけばならない。第三に、すでにある論文を基にして問題を提起することで実験を構築せねばならない。
論文を持ってくるだけならなんとかごまかせたものの、このまま実験を提案するのには無理がありそうだった。物理学系のテーマにした場合、仮に読める論文があったところで「それを発展させて、特別な機器を使わずに、結果の予測できない実験をしろ」と言われたら途方に暮れてしまうだろう。物理系や化学系の内容はやめ、生物系か心理系でテーマを決めた方が良さそうだ。我々はテーマを根本的に変えることにした。

B君は多忙らしいということで、私とA君が放課後話し合った。私に会うなり、A君は「植物ホルモンの1つ、エチレンで何か実験ができないだろうか」と提案した。エチレンには様々な作用がある(*2)が、とりわけ果物などの成熟や老化を早める作用で知られている(*3)。例えば、リンゴをまだ青いバナナの近くで保管すると、バナナは早く黄色くなる。これはリンゴがエチレンを多く放出する果物だからである。
エチレンを調べるというのは今までとは全く違う方向性である。どこからこのアイデアが降ってきたのかわからないが、とにかく乗っかって考えてみることにした。2人でエチレンについて情報を集めながら実験の案を出しあった結果、
「リンゴを部分に分け、どこが最もエチレンを出すか調べよう。エチレンの多さは、糖度計で横に置いたバナナの糖度変化を見ることで間接的に測れるだろう。」
という結論に落ち着いた。

テーマが変わったので、新たに論文を見つけて前週分を提出し直さねばならない。このスタート時点から、我々はマイナスの位置にいたのだ。課題の流れを逆走し、計画した実験に関連してそうな論文を探すことにした。
なんとか「キウイでエチレンを最も出している部位は皮の付近である」という内容の論文(*4)を見つけることができ、これに伴ってリンゴは皮/果肉/芯に分けることにした。先生にテーマの変更の旨をメールで申し立て、受理された。2週分の課題をやったので疲れた。

次の課題は、仮説を立て"Introduction"を書くことだった。さらに論文を収集し、既存の論文から「リンゴのどこからエチレンが出ているのか」という疑問にたどり着くまでをでっち上げた。「酸素があるほどエチレンの合成が活発」との論文(*5)に基づき、皮の方が多いだろうと仮説を立てた。前よりはマシとはいえ、やはり論文を読むのは骨が折れた。用語が難しいというのも要因の一つであるし、探して使えるものだけが論文中に採用される以上、実際に論文中で引用する以上の数を読まねばならなかったというのもある。
その次はMethodを書いた。実験の方法を書くところである。計画を詳細に書いた(*6)。ここでは、受動態を多く使うなどして、なるべくWeを使わない書き方を学んだ。

この時は、確かゴールデンウィークが終わった頃だっただろうか。ALESSは月曜2限の授業だったが、月曜3限,水曜2限のイタリア語では毎週月曜に小テストが行われていた。4月は直前の暗記で切り抜けていたが、4月後半にもなるとその方法では厳しくなって小テストの点数が下降してきた。また、5月上旬~中旬には熱力学の授業がさっぱりわからなくなり、授業は手の運動となっていった。線形代数についても、かなりの内容が理解できなくなった(*7)。私は自習を始めた(*8)。
そんな中、ALESSの課題は少しずつ負担となっていった。英語で論理的な文章を書くのは思いの他時間がかかるのである(*9)。面倒なALESSは後回しにしがちになって、日曜の夜の寝る時間がだんだん遅くなってしまった(*10)。結果として、2限のALESSに遅刻することが増えていった。

実験の開始が指示されたのは、大体それくらいの時分だった。(続く)

(*1)高校物理での最も新しい内容がド・ブロイ波で、1924年のことである。なお、仮にド・ブロイ波の論文があったとして、自宅では実験できない。
(*2)Lin, Z., Zhong, S., & Grierson, D. (2009). Recent advances in ethylene research. Journal of Experimental Botany , 60 (12).
(*3)食品をよりよく保管するため、様々なエチレンの研究が行われてきた。Riov, J., & Yang, S. F. (1982). Autoinhibition of Ethylene Productioni n Citrus Peel Discs. Plant Physiology , 69 (3), 687-690./Ketsa, S., Chidtragool, S., Klein, J. D., & Lurie, S. (1999). Ethylene synthesis in mango fruit following heat treatment. Postharvest Biology and Technology , 15 (1), 65-72.など。
(*4)Agar, I. T., Massantini, R., Hess-Pierce, B., & Kader, A. A. (1999, May). Postharvest CO2 and Ethylene Production and Quality Maintenance of Fresh-Cut Kiwifruit Slices. Journal of Food Science, 64(3), 433-440.
(*5)Lieberman, M., & Kunishi, A. (1966, March). Stimulation of Ethylene Production in Apple Tissue Slices by Methionine. Plant Physiology, 41(3), 376-382. 仮説は既存の論文中の根拠に基づいて立てよ、と指示された記憶がある。
(*6)ただし、使うリンゴの量などは、実際に実験するまでいい加減なことを書いていてもよい。
(*7)正確には「数理科学基礎」という授業の戸瀬先生担当分である。戸瀬先生はのちの線形代数の教員だったこと、また「数理科学基礎」の共通テキストからかなり逸脱した内容を教えておりもはや数理科学基礎ではなかったことからこう表現した。
(*8)自習によりイタリア語は立て直した。イタリア語の次は線形代数の自習に移ったが、こちらは自習しても立て直せなかった。熱力学は放置していた。
(*9)日本語の文章でさえ時間がかかる。(参考:書く速度ω)
(*10)このあたりは自業自得である。

リンク:
Arduous Learning of English for a Science Student (3)
Arduous Learning of English for a Science Student (4)
Arduous Learning of English for a Science Student (5)
Arduous Learning of English for a Science Student (Appendix)

Arduous Learning of English for a Science Student (1)

大学に入学してから早くも1.5年が経ち、私は3つのセメスターを経験した。前期教養の課程はほぼ終了し(*1)、現在は専門科目の学習に入っている。成績表を見ると、今までに取った単位数は76だと書いてあった。およそ40コマ分に相当する授業を受けてきたと言えそうだ。さて、これら前期教養の授業の中で、どれが最も印象深かったであろうか。私なら、それはALESSだと答える。
ALESSとはActive Learning of English for Science Studentsの略である。その名が示す通りALESSは英語の授業だが、ただの英語の授業ではない。Activeという形容詞が示す通り、ALESSは英語を使う訓練に重点を置いて設計されている。ではALESSはどのような点でActiveだというのだろうか。UT-Lifeでのトム・ガリー先生による説明が分かりやすい。

 <以下、引用> 
1. 英語で書かれた本物の科学論文を分析・検討することで、論文の論理構造や形式面での作法、フォーマルな用語法を学ぶ。
2. 簡単な科学実験を自ら考案し、実行する。
3. 1.で学んだことを踏まえつつ、自宅で自ら論文を書いてくる。
4. 学生同士が2人一組になり、互いの論文について気付いた点を指摘しあい(ピア・レビュー)、担当教員からのアドバイスも参考にしながら、自らの論文を推敲する。
5. 行なった実験・執筆した論文に基づき、5分程度のプレゼンテーションを行う。 
<引用終わり>

要は英語で論文を書いて発表する授業ということだ。さすが東大、有用そうな内容である。しかし3ヶ月半ほどでこれほどの内容をやるとなると、スケジュールは過密になってくる。つまるところ、ALESSは「Active」なだけでなく「Arduous」(多大な労力を要する)な授業でもあったのだ。そして、それがどれほど「Arduous」になるのか、入学当初の私は考えたこともなかった。

ALESSは大学に入って初めて受けた授業だった。
逆評定で「大仏」「教員の鑑」とされていた教員は、分かりやすい説明やビデオでの論文添削など、学生のために尽力する優しく素晴らしい先生として知られていた。 4月の私はなかなか意識が高く、それなりにやる気を持っていた。最初の授業で、先生は "ALESS is surely hard but useful. I'll do my best to make this course as helpful as possible."と、こんなことを言いながら、授業の流れを説明した。Hard but useful. なるほどそんな感じの授業だ。この授業を自分にとってできる限りusefulなものにするためにも、できる限り優れた論文を書いてみよう。私はそう決意した。
授業は「反転授業」の形式で進められた。まず、先生はyoutubeに論文の形式などについて解説した予習ビデオをアップロードし、学生はそれを視聴して授業に臨む。教室では、予習ビデオで学習した知識を踏まえて、グループワークを行った。グループワークでは論文の要約課題やパラグラフ整序問題を解いて学生同士で話し合うことで、論文の構造を学習した。先生は解説を挟んだり話し合いのサポートをしたりしていた。
そして授業の後は、学習事項をふまえて自分の論文を書く課題と、次の予習ビデオを見る課題が与えられた。翌週は自分の文章を授業に持ってきて、学生同士で読み合い意見を交換する「ピア・レビュー」を行った。ピア・レビューを終えると次のステップに進み、同様にグループワークと課題が与えられた。これを論文の完成まで繰り返した。

論文を書くため、まず班分けとテーマ決めを行った。教員は、「Ants」「Growth of Plants」「Taste」などテーマを5つほど示し、「興味のあるテーマを選んでください。それによって班分けをします」と言った。「楽そうかどうかではなく、あくまで興味で選んでください」と付け加えて、学生に挙手をさせた。かくして、「Wave」に私を含む3人が集まり、「Wave」班が結成された(*2)。以下、他のメンバー2人を、A君・B君とする。
この日は、「テーマに関連した論文を1つ検索で見つけて、説明できるようにする」という課題が出た。この「論文を探して持ってくる」課題では、論文は論文でも「実験に発展できるような論文」を持ってくることになっていた。ALESSでは、家などで特別な機器がなくても実行できる実験を行うことになっている。「wave」班では、話し合いの結果電子レンジや音波に関して何か実験ができるだろうと結論付け、各々これらについて調べてみることにした。
その週、私は論文を探すため大学の図書館へと向かった。この時点での私には、自分の論文が完成までどれほどの紆余曲折を経ることになるのか、知る由もなかった。(続く)

(*1)正確には、必修の「電磁気学」を落としているためまだ2単位残っている。
(*2)人数の多い班は分割などで調整された。

リンク:
Arduous Learning of English for a Science Student (2)
Arduous Learning of English for a Science Student (3)
Arduous Learning of English for a Science Student (4)
Arduous Learning of English for a Science Student (5)
Arduous Learning of English for a Science Student (Appendix)