2019年3月23日土曜日

見るということ

昨日、高校のときの後輩と待ち合わせをして会った。
「久しぶり。一年ぶりか」
「先輩、院試合格おめでとうございます」
「ありがとう」
「昼食どこにしましょうか」
「例によって、何も考えずに来た」
「僕も考えていません」
「あ、あそこはどうやろう、テラス席のある3階の豚カツ屋さん。テラス席に行こうとすると店員には困惑され、高校生には笑われ、眺めは良くない上に非常に寒く、今のような時期にテラス席にするメリットは全くない」
「適度な温度と湿度のある場所がいいです」
「そうやな。君が喉を痛めると良くないもんな。そうそう、健康といえば、最近薬物にハマっていて。ここに来るときも、電車の中で広告を見たら「大麻」って書いてあったんやけど、何事かと思ってよく見てみたら「大阪」やったんよ。全然違う単語やったからビックリした。えー!「大阪」が「大麻」に見えたってこと!?って」
「こんなところで大麻大麻と言うのはやめて下さい。人に聞かれたら先輩の同類と思われるじゃないですか」

食事をして店を出たところ、彼はお手洗いに行きたいと言った。近くに百貨店があったため、その中のトイレを借りることにした。彼をトイレに行かせて、私は外で待っていた。
辺りを見回すと、2つの消火器が置いてあった。暇だったので、私はしゃがんで消火器を眺めていた。へー。片方は2015年製、もう片方は2016年製か。もしかすると、同時に使用期限が切れてしまって使える消火器がない、とならないようにしているのだろうか。なるほどなあ。振り返ると、後輩は排泄を済ませて戻っていた。私は彼に声をかけた。
「お帰り」
「先輩、何してたんですか」
「何って......。消火器を見とった」
彼はいきなり笑い始めた。不可解な奴だ。
「さっきまでカップルが先輩のことをじろじろと不審そうに見ていましたよ。先輩、不審者ですよ。あーこの人やってしまったなあ、と思いました、本当に。もうどこかに行ってしまいましたけど、カップルがいる間に先輩に話しかけられたらどうしようかと」
「え......。もしかして、こんなことしてるから俺って彼女がいないのかな」
「そうですよ。デート中に彼氏が消火器見てたら彼女も『別れよう......』ってなりますよ」

はあ。もっと早く振り向いて、「おう、もうマリファナ吸い終わったんか。早かったな」とでも言ってやればよかった。実に惜しいことをした。

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