2020年2月1日土曜日

新年のスピーチ

数週間ほど前、大学の友人からある相談を受けた。彼は部活動のコーチをしており、部の新年会でスピーチをしなければならないというのだ。相談の中身は、そこで話す内容を考えてほしいというものだった。ちなみに新年会はOBも集まるややフォーマルな場だそうだ。
私が考えたのは次のようなものである。
新年あけましておめでとうございます。
新年といえば「一年の計は元旦にあり」という諺がありますね。今年を実りあるいい一年にするためにも、始めに目標を立てておくことは大切です。詳細は省きますが、私も年が明けてから今日までに今年の目標を1024個立ててきました。
さて、皆さん「カオス」という概念はご存知でしょうか。例えばボールを持ち上げてパッと手を放したとき、ボールは「落ちる」という動きをするでしょうね。あるいは夜空に浮かぶ月に関しても、ずっと地球のまわりをぐるぐるぐるぐる回っているだろうというのはおおよそ予測がつくことです。ですが、「動きに予測がつく」ことは当たり前のことではありません。これらの現象の場合、地球とボール、地球と月というように、主に関わっている物体はせいぜい2つしかありません。ところが、3つ以上の物体の運動を考えるとなると、途端に話が変わってくるのです。19世紀の数学者ポアンカレは、3つの天体による運動を研究する過程で、それらが非常に複雑な軌道を持ちうることを発見しました。そこでは、ほんの少し初期値が違うだけで物体が全然違う動きをするのです。最初の状態がほんの少し違うだけで未来が大きく変わってくる、こういった性質で特徴付けられる系は「カオス」と呼ばれ、盛んに研究が行われてきました。 部活動もこれと同じです。ほんの少しの初期条件の違いが、やがては大きな違いとなって現れるのです。何事もはじめが肝心です。一年の計は元旦にあり。年が明けた今、しっかりと目標を立てて、いい一年にしていきましょう。

 ......はい。皆さんは今の話を聞いて何か違和感を感じましたか?なんとなくそれっぽく話してきましたが、よくよく考えてみてください。カオスと我々の部活動には別に関係がないことに気付くと思います。3つの天体の軌道がカオスになるからといって、だから何だという話です。それに、仮に初期条件の違いが後々大きな違いを生むとしても、だから目標を立てるといい一年になるのだというのはあまりに論理が飛躍していて、いくらなんでも意味不明です。
この私が代表的な例ですが、世の中にはいい加減なことを言う人がたくさんいます。いい加減な人のいい加減な話に騙されることなく、自分の頭でしっかりと考えながら、効率的にトレーニングをしていきましょう。
私からは以上です。ご清聴ありがとうございました。
 友達は答えた。
 「相談する相手を間違えた」

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