虫歯予防のため、年に数回は歯医者に行って歯を診てもらうようにしている。普段であればキャンパス併設の保健センターに行くのだが、今年はコロナ禍の関係で実家にいる。そこで、実家近くのとある歯医者に行くことにした。
自転車に乗って家を出て、10分ほどで歯医者に着いた。最近リニューアルしたらしく、院内は真新しくて清潔感がある。受付で保険証を出し、問診票を書いていると、受付の女性に声を掛けられた。私のことを知っているという。
私は彼女の顔に見覚えがなかった。聞けば、彼女は私の高校同期ということである。専門学校を卒業して歯科衛生士になり、ここで働いているそうだ。
私は高校を首席で出ている。高2から卒業まで不動の学年1位の座にあった私の名前は、高校の中で多くの人が知るところだった。それゆえに、私が彼女を知らなくても、彼女は私を知っていたのだ。
私は彼女にレントゲン室へと案内された。
「それじゃあ、レントゲン撮るから。ここに顎のせて、この出っ張りをかんどいてな」
彼女と話すのはこれが初めてだったが、診察中も彼女は私にタメ語で話した。レントゲン写真が現像されるまでの合間で、彼女と少し雑談した。
「この前、Aちゃんの結婚式に行ってきたわ。あの、高校のときB君と付き合っとったA。卒業してからBとは別れたんやけど、大学の先輩と結婚したんやって」
Aが結婚したという話を聞いて、そうなのか、ついにAは結婚したのか、と思った。私はAとBが付き合っていた事実を知らなかった。そもそもAのこともBのことも誰のことだか分からなかった。今こうしてAやらBやら仮名を使って書いているが、プライバシーへの配慮以前に、どんな名前だったのか全くもって思い出せないのだ。
Aが果たして誰であるのかはおいておいて、とりあえずめでたい話には違いなかった。結婚式には行けなかったが、私もこの場を借りてAに祝福を送りたい。
「奥歯のところ、歯肉の溝がちょっと深くなっとるわ。これ放っておいたら歯周病になるかもしれへんから、磨いていくな」
彼女に歯石を取ってもらっていると、何かの手伝いということで、彼女の他に2人歯科衛生士の女性が来た。
「知り合いなん?」
「そう。同じ高校やったねん。めっちゃ頭良くて、今東大」
「私本物の東大生初めて見たわ!」
「私も!」
私だって歯医者でそんなこと言われるのは初めてである。とはいえ、女性達に頭が良いとチヤホヤされて悪い気はしない。こんな体験、なかなかできるものではないだろう。
こうして一通りの処置が終わった後、私は口内の爽快感を味わった。やはり新しいだけあって設備がいいのか、汚れがすっきり取れている感じがする。私は歯石が取れた満足感とともにお金を払い、病院を出て、自転車にまたがりながら、
次からは別の歯医者に行こうと思った。
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