2020年5月1日金曜日

短編小説: 洗剤

私の友人みりあが中学生時代に執筆した小説「洗剤」を、当人の許可を得て公開する。一部現在の感覚に照らし合わせて不自然な表現(*1)もあるが、時代背景を考慮した上で当時の表現を尊重し極力そのままにしておいた。ただし、誤字と思われる箇所に限り軽微な修正を行った。
「洗剤」は、国語の授業で詩「ジーンズ」(*2)を小説に翻案せよという課題を出された際に彼女が提出した作品である。彼女の文才が遺憾無く発揮された絶妙な筆致とコンパクトながら衝撃的なストーリー展開が(先生はともかく)我々の間で絶賛され、今もなお伝説として語り継がれている名作だ。
栴檀は双葉より芳し、という言葉がある。成長した今もなお多方面でマルチな活躍(*3)を続ける鬼才・みりあが紡ぐ「洗剤」の世界を、皆様にも是非読み味わっていただきたい。

(*1) 2009年に登場したブランド「さらさ」が今ではすっかり定着したものになっている、など。
(*2)「洗剤」の価値を知るためには、まず「ジーンズ」を解釈する作業が欠かせない。cf. 高橋順子『ジーンズ』で詩の読み方を教える
(*3)1つのソシャゲに200万円以上課金する、山で凍死しそうになる、大便を漏らす、頭から血を流しながら試験を受ける、家にいない間に知らない女の人が自分の下宿のベッドで寝ているところを発見する、など。

洗剤 
 ジーンズを洗濯して干した。洗剤はもちろんトップだ。レノアも忘れてはいけない。レノアを使うと服が柔らかくなり、着心地がよくなる。また匂いもいい。あいつも結構機嫌がよくなっていた。あいつとは私の元彼だ。もう別れてしまった。だが今、私に未練はない。だから私は、あいつからふっきれるためにジーンズを洗ったのだ。あいつが好きなのはアタックだから洗剤を変えたのだ。ジーンズは決して裏切らないから・・・。
 あいつとは五大薬局で知り合った。あいつは新発売のアタックNeoを勧められていた。私は、トップをまとめ買いするところだった。私はあいつに一目ぼれした。それから私とあいつは付き合い始めた。メーカーは違うが、二人とも洗濯用洗剤には人並外れたこだわりを持っていて意気投合したようだ。あいつは以前、ブルーダイヤを使っていたらしいが、アタックの方が良かったらしい。私はためしにアタックを使ってみることにした。案外よかったが、やはりトップには代えられない。
 だが突然、あいつはこだわりをやめやがった。新発売の「無添加さらさ」というやつを使いだしたのだ。私は怒りを通り越してはらわたが煮えくりかえった。互いにメーカーは違うが、情熱のあると言ってもいいくらいのこだわりの洗剤がある仲ではなかったのか。私とあいつとはそれっきりだ。アタックなんかもう使わない。そう思って私は新たな洗剤を求めスギ薬局へと走った。五大薬局はもう行きたくない。だがポイントを使うために別の五大薬局には行こうと思うが。私はボールドとアリエールとナノックスをそれぞれ1箱ずつ買ったが、トップの昔から変わらないなんともいえないあの柔らかさには代えられない。
 それからあいつとは何もない。どうせ次はファブリーズにでも手を出しているんだろう。
 私はスギ薬局の常連になった。今は、ファーファとトップを検討中だ。洗濯機はななめドラムがいい。そうだ。明日はジョーシンに行こう。ジーンズと家計に優しいななめドラムを安く買ってやるのだ。

関連記事: 「つい洗剤を出しすぎてしまい困る」

0 件のコメント: