2021年12月14日火曜日

後輩を泊める

高校のときの部活(*1)の後輩であるR君が私の家に泊まりに来た。東京で学会発表するついでに「ぼっち・ざ・ろっく!」の舞台、下北沢に来てみたいということだった。彼は普段兵庫県西部の実家に住んでいて、東京を訪れるのは人生3回目だそうだ。


(*1)天文。より正確には、自然科学部天文班。

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彼とは以下のような会話をした。

私「長旅お疲れ様」
R「疲れました。新幹線は快適だったのですが、渋谷駅と井の頭線が......」
私「うんうん。渋谷なあ。あれ大変よな」
R「乗り換えもよく分からなくて、少し遅れてしまいました。今の疲れの90%以上は渋谷以降で発生してます」
私「俺んちマッサージ機めっちゃあるから好きなだけ使ってええで。5つくらいある」
R「おじいちゃんですか」

R「おじゃまします」
私「はいー」
R「薬めっちゃある......」
私「好きなん飲んでええで(*2)」
R「いらないです」
私「俺これ一通り飲むのに1日5分くらいかかっとる」
R「おじいちゃんでもそんなに飲まないですよ」
私「なんか内科行って歯医者行って耳鼻科行って外科行ってってしとったら病院行くだけで一日終わるんよな」
R「おじいちゃんじゃないですか!病院のハシゴするのはそれ完全におじいちゃんですよ」
私「俺って余命いくばくもないかもしれんわ」
R「あ、アロマオイルがある」
私「俺アロマが趣味やねん。今10種類以上あるから好きな香り選んで。セットするわ」
R「柑橘系の香りがいいですかね......。ていうかどこ目指してるんですか、もはやおじいちゃんでもない」

R「東大ってやっぱり育ちが良くて、お金もあって、運動もできて......みたいな人いるんですか?」
私「あー出木杉くんみたいな?まあおるわなあ」
R「そういう人って性格も良いですよね」
私「せやなあ。それに引き換え俺は、頭も悪いし、性格も悪いし、運動神経も悪いし......」
R「せめて性格が良かったらよかったんですけどね」
私「シャミ子が悪いんだよ」
R「シャミ子のせいにしないでください」

R「コロコロ使っていいですか」
私「ええで」
R「ちょっとカーペットの髪の毛が気になって......」
私「マジか。3日前に出してきた新品やし、掃除機もかけたんやけどな」
R「でもほら、こんなに」(かけた後のコロコロを見せる)
私「ごめん。今回こそは君に怒られんよう頑張ってめちゃめちゃ掃除したつもりやったのに」
R「別に怒ってはないですよ」
私「でも、長旅で疲れたお客様にこんなことさせて申し訳ないわ。世話になっとる君にはゆっくりリラックスできる空間を提供してやりたかった。悔しい」
R「ああ......。ただこれは、どのくらいまで汚くても耐えられるかの閾値が人によって違うだけで。先輩はこれくらいでも大丈夫で、僕はもっと綺麗な方がいい、それだけのことです」
私「なるほど」
R「僕も綺麗好きなんですけど、お母さんはもっと綺麗好きなんですよ。キッチンとか、すごく綺麗で。僕が綺麗好きなのはそれでなんです。研究室なんていっつも僕だけが掃除してるんですよ。誰も掃除しないから」
私「それはかわいそうに......。でも俺の旧実家はめちゃめちゃやったなあ。廊下はベコベコでたまに足裏にナメクジがついたし、床下が腐って風呂場は黒カビどころかでっかいキノコが生えとった。床は傾いとって、雨漏りもしょっちゅう。これは掃除でどうこうなる範疇の問題やないから、俺が東京に出ていくまでどないしょうもなかったんやけど」
R「よく生きてこられましたね」
私「キノコが殺しに来るわけないやろ。冬虫夏草かよ。でも俺が生まれてから(*3)大きい地震がなかったのは幸運やったかな」


(*2)薬機法に抵触しないよう、養命酒やチョコラbbなどの一般用医薬品のみをすすめている。
(*3)私は1996年生まれである。

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R「ここの配線周りも気になりますね。ごちゃごちゃしてますから、系統ごとに分けたいです。この線抜いていいですか?」
私「ええよ。でもどういうこと?」
R「加湿器みたいに表に出す必要のある機器の線と、ルーターのように裏方でいい機器の線を分けて、裏方の線を全部テレビの後ろに回すんです。そうするとテレビの前の空間がスッキリして、有効に使えますよね」(作業する)
私「ほー。賢いなあ。無計画に線増やすばっかりで、そんなこと考えたこともなかったわ。賢い」
R「アホですか」
私「辛辣!」

(私がトイレから戻る)
私「あれ、エタノールの匂いがする」
R「椅子を拭いておきました」
私「マジか。そんなことまでさせるつもりじゃなかったのに......」
R「僕もこんなことまでするつもりじゃなかったんですけどね。つい気になって。姑みたいですが」
私「ここにホコリたまっとったん?よう気がついたなあ」(椅子の部品を触る)
R「今まで気がつかなかったんですか」
私「こんなところ見たことないわ。乱視の俺にはよう見えへんところや」
R「視力の問題ではないですが、乱視は早く治してください」
私(乱視用眼鏡をかけて、再度確かめる)
R「眼鏡をかけていると賢く見えますね」
私「ホンマに賢いからな。俺は高校の首席やぞ!」
R「この椅子いつ買ったんですか」
私「結構新しいで?今年の3月やったかな」
R「それでこんなホコリ溜まるんですか!?何したんですか」
私「え......普通に座っとっただけやけど......。俺が社会のゴミみたいな存在やから、知らず知らずのうちにゴミを引き寄せとったんかもしれんな。ペットは飼い主に似て、持ち物は持ち主に似るっていうやん」
R「ゴミはゴミ箱へ」
私「大宮忍かよ」

R「先輩のところの次は上野にいる後輩のところにも泊めてもらう予定です」
私「お、三ツ星カラーズ
R「浅草や押上にも行きます」
私「スカイツリー、すみだ水族館
R「一緒にご飯食べるだけなんで、そういうところは行かないですかね」
私「すみだ水族館、あそこは一回行ったけど、良かったよ」
R「そうなんですか」
私「うん。水槽におった金魚が自分のウンコ食っとって。あれは最高やったな」
R(ため息をつく)
R「そういうこと言わなければいい先輩なんですけどね......」(小声で)
私「大丈夫。俺、根は真面目やねん」
R「地上に出ているものが全てですよ」
私「押上と浅草か。数年前に友達とどじょう食べたんやけど、面白かったな」
R「面白い......?」(少し笑う)
私「うん、interesting」
R「interesting......」
私「え、あ、いや、これはマジ。マジのやつ。行く価値がある。そりゃコスパだけ考えればもっと美味しいものはあるやろうけど、"どぜう鍋"は江戸らしさが感じられて、ある種テーマパーク的な面白さがある。これは別の店の話やけど、深川めしなんかを食べるのも東京らしくていいと思う。駅弁で有名な貝の炊き込みご飯」
R「ああ......。先輩が面白いって言うと、その......」
私「なんか俺マジで言っとるのに信用されんってこと最近めっちゃ多いんよなあ。どうすればいいと思う」
R「さあ」
私「たすけて〜」

私「こうやって他の人の部屋に泊まったことってどんくらいある?」
R「うーん、友達は僕と同じで実家通いの人が多いんで、あんまりないですね」
私「そうなんや」
R「大学の先輩でNAISTに行った方の家に伺ったことがあったのですが、その奈良のお宅はもっと綺麗でしたよ。その先輩は肉じゃが自分で作って食べてました」
私「ああ!?何や!!当て付けか?当て付けか、おい!当て付けなんか!」
R「違いますよ......それは人それぞれですし......」
私「うるさい!!嘘つくな!綺麗と汚いやったら綺麗な方がええに決まっとるやろ!」
私「......うん」(急にスッと静かになる)
私「まあそれは冗談として、一人暮らしでそんな綺麗に保てるのはその先輩マジですごいな。俺これでもめちゃめちゃ頑張っとるつもりなんやで」
R「うーん......。僕は一人暮らししたことないんで、分からないですけど」
私「でも俺アレやで、風呂はめっちゃ入っとるで。大体一日2回シャワー浴びる」
R「先輩って部屋は汚くても体は綺麗にしてるんですね」
私「ほら、俺って心が綺麗やから。自分の心にその器としてふさわしい綺麗な体を用意してあげないといけない」
R「はあ.....。そうですか」

******

私「スーパー寄ってええ?」
R「いいですよ」

私「なあ、てっちり食わん?てっちり。ふぐが通常5000円のところ40%offになっとる。ふぐ食おうや」
R「いや、いいです」
私「そうか.....」

私「明日の朝ごはん何がええ?」
R「そうですね......。先輩何が作れるんですか?茹で卵お願いできますか」
私「OKOK。よく茹で卵食べとるん?」
R「生卵よりは茹で卵ですかね」
私「板東英二かよ!!!!!」
R「そこまでじゃないです」

******

私「あ、起きた?朝ごはんもう作ってあるで。茹で卵の他に、真鯛の煮付けも作ったから食べてみて。このプチトマトも食べてええで。味噌汁(インスタント)のお湯は自分で作ってな」
R「ありがとうございます」
私「この卵、養鶏場が経営しとる卵の店で買ったんやけど、1個大体40円やねん。うまいで」
R「はあ」
私「いやリアクションうす。1個40円やで?すごない?」
R「すみません、自分で卵買わないんで、値段わからないです。もしかしたら家の卵のほうが高いのかも......」
私「もしそうやったら君の住所に「大切な息子さんに粗末なものを食べさせてしまい誠に申し訳ありませんでした」ってお母様に向けて葉書送らなあかんわ......」

R「先輩って下北沢に住んでるのにあんまり下北沢の街行かないんですか」
私「そうやなあ。スーパーオオゼキにはめっちゃ行くけど。シモキタってカレーと古着と演劇とサブカルの街なんやけど、どれも俺には特に刺さってへん」
R「なんでシモキタに住んでるんですか......」
私「俺にはオオゼキがあるからな」
R「僕がここに住んだら先輩よりは古着見たりご飯食べたりすると思います」
私「俺移動が嫌いなんよな。なるべく移動したくない。運動もジョギングよりは部屋でスクワット。スクワットやったらやりながらアニメ見られるし」
私「3年前やったかな。友達のおくが夏休みに北海道の宗谷岬に行ったっていうてて。俺はそんなところ1人で行って何すんねん、移動時間退屈やろって思ったんやけど。でもおくは「僕、移動が好きなんだよね」って」
R「変わってますね.......」
R「それにしても、ここって若者向けのものが多いですね」
私「そやな、ここは東京の中でもそういう街や」
R「ここにいたら買い物するのも楽しいでしょうね。姫路なんて選択肢が全然ないですから。おしゃれしても誰に見せるねんって。意味ないです」
私「うーん。それはあるかも。知らんけど」
R「あと店員さんがみんな若いですね」
私「それ絶対おかしいよな。みんないつかは老人になるのに。多分年取る前に店長が殺してどっかに埋めとるんやろな」

R「昼ごはんハンバーガーなんてどうですか。おしゃれな店あるみたいです」
私「ハンバーガーは食べへんな。ハンバーガー食べるくらいなら家で食うわ。ハンバーガーより家で揖保乃糸食っとるほうがうまい」
R「はー。先輩ってハイカラなもの食べないですよねー」
私「そんなことないで。ウエハースとかも食う」
R「はあ」
私「流された。できればウエハースってハイカラなんですか、のツッコミをしてほしかったな......」
R「あ、このハンバーガー、アボガドが入ってるんですね.....」
私「アボ カ ド嫌いなん?」(「カ」を強調する)
R「アボカド?」
私「アヴォカードウ」
R「アボカド」
R「嫌いっていうかあまり食べたことがないです」
私「アボカド美味いで?俺晩ご飯のおかずがアボカドしかない日もある」
R「パンとアボカドですか」
私「いや、ご飯」
R「ご飯ですか」(笑う)
私「待って!これはガチ。マジやから。ほんとに信じて。アボカドは醤油をかけるとご飯に合う。俺だけがやってることじゃない。信じてくれ」
R「そういえばそんなどんぶり見たことある気がします」
私「また信じてもらえないやつ出てしまった」
R「奇行が多すぎてどっちなのかわからないんですよ」
R「それで先輩はハンバーガーの店こないんですか」
私「ふむ。そんなに俺と一緒におりたいんか?しゃあないなあ」
R「違います」
私「とにかく俺はハンバーガーなんて食わん。宇野じいも小麦はまずいって言ってた」
R「まず宇野じいを知らないですし、影響されすぎです」
R「でもこの店ハンバーガー1つ1000円なんですか。高い......」
私「ああ、俺に奢ってほしかったんか。金なら出したるからひとりで行っといてくれ」
R「そういうことじゃないです」
私「じゃあこうしよう。俺にハンバーガーの写真を撮ってきてくれ。撮影代として俺が500円だか1000円だか払う」
R「ハンバーガーの写真くらい僕が撮らなくてもネットにあります」
私「俺の折角の計らいを......」
R「自分のお金で食べたいんです」
私「そうやったんか。君は自分で払うのが好きやったんか。昨日は良かれと思って晩飯を奢ってしまってすまなかった。今すぐお金返してくれ」
R「そういうこと言うと本当に返しますよ」
私「え、あ、それはちょっと......」
R「めんどくさい人ですね」
私「結局ハンバーガー屋さんには行くんけ」
R「はい。ここにいるとこのまま何も食べられなさそうですし」
私「OK。俺は家でヒレ肉をステーキにして食うから、写真撮って後で見せてくれ。ちょっとトイレ行ってくるわ」

(トイレから戻る)
私「てか一緒にラーメン屋いかん?」
R「そういうのは最初に言ってください!!完全にハンバーガーの気分になっちゃったじゃないですか!!!」

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私「おかえり。ハンバーガー美味しかった?」
R「はい。見てください」(スマホを差し出す: 写真1)

写真1 R君の食べたハンバーガー

私「え!?!?ちょっと待って!!これすご!」(食い気味に)
私「ここ見てよここ」(スマホを返す: 写真2)

写真2 写真1の拡大図

私「このチーズ!目が2つ、鼻の穴が2つ、ニッコリした口!顔になっとる!顔に!君に写真頼んで良かった!」
R(呆れる)
R「はー。そういうところですよ、先輩」

私「晩ご飯天丼どう?ラーメンのこと考えながらステーキ食ってたら久しぶりに天丼が食べたくなった」
R「ステーキと天丼何の関係があるんですか」
私「関係ない」
R「ないんですね」
私「関係ないことをさもあるかのように言うとちょっと面白いかなと思って、言ってみた」
R「全然面白くないです」
私「確かに」
私「......。ごめん」

私(ガムを食べる)
R「ガム食べるとお腹痛くなりません?」
私「そうやねん!めっちゃなる!俺もう毎日お腹痛くて。ビオフェルミンで何とか耐えとるんやけど、これどうしたらええんやろ」
R「ガムを食べるのをやめてください」
私「そんな簡単にやめられたら苦労せんよ」

(上の住民の足音がドンドンと響く)
R「この部屋、一階で良かったですね」
私「なんで?」
R「もし二階でリングフィットやってたら下に響くじゃないですか」
私「いや、俺は二階の方がよかったな。今こうして上の住民から一方的にやられてるわけやんか。俺はやられるよりやる方が好き」
R「先輩、そういうところから性格直していきましょう」

R「先輩の生活ってTwitterの感じと比べるとだいぶまともですね」
私「そうか?どんなイメージ持たれとるんや俺。そんなにTwitterがおかしいか」
R「普通「たすけて〜」なんて言わないですよ」
私「いや、救済はほしいやろ。人の世には救済が必要。俺は人類救済が実現される日を待っている」
R「救済なんてないですけどね」
私「たすけて〜」

******

私「いやーあそこ天丼めちゃめちゃ美味かったな。今まで食べた他のどの店の天丼よりもここが美味い。ネット上のクチコミは少ないんやけど、俺はここ隠れた名店やと思っとる。下北イチの」
R「小さい店でしたし、自分1人じゃ絶対見つけられなかったです。やっぱりグルメ情報は地元の人に頼るのが一番ですね」
私「そやろ。気に入ってもらえて良かった。ここはカレーも美味いねんで」

私「今日からはどこ泊まるん?」
R「有楽町のホテルですね。大学から出張費が出ています」
私「ご飯はどうするつもりなん?」
R「あのあたりって多分高いですよね。どうしよう......」
私「有楽町といえば北海道のアンテナショップや。あそこで佐藤水産のルイベを買って食うのが多分一番美味い」
R「相変わらずやたら渋いですね......」

R「えーっと、下北沢から有楽町は......」
私「ホテルはなんていうとこなん」
R「(ホテルの名前)です」
私「ふむふむ......。なるほど......。ホテルがこの位置なんやったら有楽町駅目指すより東銀座の方がええ。渋谷乗り換えがあったら疲れるやろ。この行き方でも千代田線の小田急直通を使えば乗り換えは日比谷の一回で済む」
R「日比谷と渋谷ってどっちが楽なんですか」
私「日比谷の方が10倍楽や」
R「じゃあそっちで」
私「ほら、あそこの電光掲示板にアビコ(我孫子)ってあるやろ。ワレ、マゴ、コドモ」
R「ああ、あれに乗ればいいんですね」
私「そう!」
R「それでは、ありがとうございました」
私「いやいや、こちらこそ!掃除やら何やらさせてもてごめんな。C++についても色々教えてくれてありがとう。グッバイ!」

この後輩にしてもそうだが、本当のことを言っても信じてもらえないことが非常に多い。最近の私の悩みの1つである。

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