血液検査をすることにした。といっても何か具体的な症状が生じたわけではなく、あくまで確認のためである。
少量の採血で済む内容であれば、わざわざ病院に行かなくても郵送で検査できるという。申し込みから数日経つとキットが届いた。開封したところ、中にはランセットという器具が入っていた。これを指先に押し当てながら作動させると一瞬針が飛び出て、指先に小さな傷を作ることができる。この傷からの血を採取して郵送するということだった(*1)。
ランセットは3本入っていた。一度針を出すと、もう二度と針を出せない仕組みになっている。つまりチャンスは3回きりということだ。試しに一本使って左手の薬指に針を打ってみたが、これがなかなか難しい。血が出ないのだ。正確には、出るには出るがすぐに止まってしまって血が足りない。血液量が指示されたところまで届かないと、検査ができないかもしれない。
説明によると、採血前に血行を良くしておく必要があるらしい。そこで、洗面器に40度のお湯を張り、そこに5分手を浸して、手のマッサージをした。その上で2本目のランセットを取り出し、左手の中指に針を打った。
血が出ない。正確には、出るには出るがすぐに止まってしまって血が足りない。次のランセットが最後のチャンスだ。なんとしてでも血を出して、検査機関に私の血の味を教えてやらねばならない。
とにもかくにも血行である。血行を良くしたい。いくら高校時代の成績が良くても今の血行が悪ければ意味がない。アメリカの法制度でサマリア人がよいとされているのも、サマリア人の血行がよいためである。
こうなったら筋トレをするしかないだろう。プランク30秒を3回にスクワットを100回だ。洗面器に46度のお湯を張り、ひいひい息を切らしながら手をひたす。これが本当の血の滲むような努力かと独り言を言いつつ、3本目のランセットで左手の人差し指に針を打った。
......血が出ない。正確には、出るには出るがすぐに止まってしまって血が足りない。血の気が引いた。翁、嫗、血の涙を流して惑へど、かひなし。こんなに血行が悪いのでは、血祭りへの参加資格も血で血を洗う争いへの挑戦権も剥奪だろう。
ランセットはもうない。もうリスカするしかないのか。カッターナイフはないが包丁ならある。いや、包丁は豚肉やら鶏肉やらを切っていて汚そうだ。
結局カスタマーセンターに電話することにした。すると、「量が足りなくても検査できるかもしれないので、とりあえず送ってみてください。無理だったら無理だったでまた連絡します」という旨のことを言われた。そこで、大人しく包丁をしまい、採れた血をそのまま送りつけることにした。
数日すると結果が届いた。無事検査できたようで、全ての項目で異常なしとなっていた。
こうして血液検査をやってみて思ったのだが、超てんちゃん(*2)がリスカしていたのも血液検査のためだったのではないだろうか。自傷癖よりそっちの方が面白いから、そうであってほしいものである。
(*1)言葉だけでは説明しにくい。詳細は「ランセット 採血 自宅」などのワードで検索してほしい。
(*2)超てんちゃんはNEEDY GIRL OVERDOSEというゲームに登場するキャラクターで、"メンヘラ"の美少女である超てんちゃんを配信者として育成していくのがゲームの目的である。NEEDY GIRL OVERDOSEは昨年遊んだのだが、1回目のプレイでは超てんちゃんを病院や公園に何度も連れて行きつつ睡眠時間をたっぷり確保させた結果、速攻でゲームオーバーになってしまった。メンヘラのはずの超てんちゃんがあまりにも健康になってしまったのである。